ポジションサイジングの方法は細かくは千差万別ですが、根本の考え方は、資金に見合ったロット計算をしようというだけのこと。
資金管理というと、なんだか経理事務みたいなイメージでめんどくさそうですが、 ポジションサイジングの線引きさえ守れば、
- 強欲からくる過剰なポジションサイズを抑止できる
- 投資の最大の魅力、複利の効果を合理的に引き出せる
という素晴らしい効果があります。
今回は、大抵のFXの取引画面に登場する実質レバレッジを使ったロット計算方法をご紹介します。自分なりの線引きによる実質レバレッジをロット計算に取り入れ、大いに儲けましょう。
レバレッジと実質レバレッジ
FXは口座資金の何倍もの通貨を取引できる仕組みがあり、その倍率をレバレッジと呼んでいます。日本のFX会社では最高25倍です。レバレッジのおかげで少額で高いリターンが実現可能になっています。
一方、それとは別に、資金管理的な観点で、実質レバレッジ(実効レバレッジ)というものがあり、これは次のように計算します。
実質レバレッジ=保有通貨金額÷口座資金
保有通貨金額は、ポジションの金額のことです。 実質レバレッジを軸にすることで、資金管理がわかりやすくなり、かつ安定的でハイリターンな投資が望めるわけです。
ロット数から実質レバレッジを計算
まず、ある通貨ペアを何ロット売り買いすると、実質レバレッジはいくらになるか、その計算方法をおさえておきます。
自分で計算できるようにしておけば、口座資金がどこまで増えたらロットを上げるか、逆にどこまで減ったらロットを下げるか、予め計画をたてたり線引きの数字を検討したりするとき役立ちます。
とはいっても計算は四則演算のみの簡単なもの。以下にEXCELを使った計算例を説明します。もちろん、GoogleスプレッドシートなどでもOKです。
円を含む通貨ペアの場合
次の図は、円を含む通貨ペアの場合です。ドル円を例にしています。図中の項目”口座資金”は”有効証拠金”と同じ意味です。
なお、保有ポジションのスワップポイントの損益は考慮していません。
1ロット(1枚)あたりの通貨数量はFX会社によりまが、日本の法人の場合は、ほとんどは1ロット=1万通貨ですが、海外ブローカーでは1ロット=10万通貨や、1ロット=1000通貨の場合もあります。このため、通貨数量を入力項目として設けておくとなにかと便利です。
円を含まない通貨ペアの場合
円を含まない通貨ペアで実質レバレッジを計算するときは、取引通貨ペアのレートと円貨レートの2つのレートが必要になります。また、保有通貨金額の計算が、ドル円のケースから少しばかり変更になります。
下の図は、USD/CHF(CHF:スイスフラン)の計算例です。図中の「変更」は円を含むケースから項目追加や計算方法の変更がある項目です。
複雑なようですが、取引通貨ペアの分母の通貨を分子にした円貨レート(JPYを含む通貨ペアのレートのこと)を使う、というポイントを覚えておけば簡単です。
EUR/USDのように、分母がUSDである通貨ペアを取引する場合は、すべてUSD/JPYのレートを使います。
実質レバレッジからロットを計算
さて本題の、実質レバレッジからロットを計算する方法です。やりたいことは、次のとおり。
ここでも、通貨ペアが円を含むか含まないかで、それぞれ説明していきます。
円を含む通貨ペアの場合
必要証拠金や保有通貨金額(ドル)はロットの逆算に必要ありませんが、以下の説明図では、前述の結果と同じになるということを明示するため載せています。
赤枠の説明がポイントです。口座資金に実質レバレッジを掛けたものが取引に使えるお金(保有通貨金額)で、これを1ロット分の通貨数量の金額で割ればロット数が計算できます。
円を含まない通貨ペアの場合
円を含まない通貨ペアのロット計算を、EUR/USDを例にして説明図を作成しました。
2つのレートを使うところは、円を含まない通貨ペアの実質レバレッジの計算と同じ要領です。
このように、実質レバレッジを同じにしてやれば、異なる通貨ペアの間で、必要証拠金や余力が同じ金額になるようにロット数を決めることができます。
実質レバレッジでロットを決めれば海外ハイレバも安全
海外FXブローカーは、昔日本でもそうでしたが、数百倍のレバレッジが可能です。いわゆるハイレバ。
このため、海外FXは超がつくハイリスクハイリターンでギャンブル的存在に思われがちです。
実際、数字を管理していないと心理的おさえが効かなくなる、”魔が差す”瞬間がいつかやってきます。そのときハイレバが牙をむくわけです。
しかし、実質レバレッジを固定してロット数を管理すればハイレバの危険を避けられます。 仮にXMの888倍でも、実質レバレッジ11倍と入力すれば、以下のとおりレバレッジ25倍の日本のブローカーと同じ計算結果の1ロットになります。
大きく異なるのは余力で、レバレッジ25倍の56,000円に対し98,761円、42,761円も多くなっていますね。これは、少々負けが続いても同一ロットを維持しやすく、土俵を割りづらくなるというハイレバの利点です。
ただし、自分で決めた実質レバレッジのルールを絶対に守るという前提があってこその利点であり、より自制心が要求されるともいえるでしょう。
固定比率サイジングという考え方
口座資金と投資資金の比率を一定にする、 固定比率サイジングという考え方があります。
比率を一定にしているので、勝てば口座資金が増えるのでロット数が上がり、負ければ逆に下がることになります。この効果は、冒頭の繰り返しになりますが、
- 強欲からくる過剰なポジションサイズを抑止できる
- 投資の最大の魅力、複利の効果を合理的に引き出せる
とはいえ、杓子定規に毎回実質レバレッジにもとづいてロットを変えるのは、負けがこんでくると損失が取り返しづらくなります。
毎回ロットを変更するのは、ひとつの行き方だとはおもいますが、とくにFXを始めたばかりのころは結果がでづらいので、精神的にきついやり方です。
では、どうすればよいでしょうか?
実質レバレッジは低めに設定
固定比率サイジングを行うには、次のような条件を設けておくのが有効です。
- あるていど負け続けてもロットを下げる必要がない低めの実質レバレッジを設定する
- ロットを上げる実質レバレッジを決めておく
- ロットを下げる実質レバレッジを決めておく
たとえば、ある時点の口座資金で計算した実質レバレッジ5倍のロット数でしばらく固定し、負け続けて実質レバレッジが7倍に達したらロットを下げ、 実質レバレッジが3倍まで低下したらロットを上げる、といった幅をもたせます。
FX会社のトレードアプリには実質レバレッジが表示されていることが多いですが、表示されない場合は、最初に説明した方法で口座資金とロット数から実質レバレッジを見積もれます。
ポジション2つ分でロット計算する
絶妙のエントリーポイントを1ポジションで捉えることは、一般的にいっても難しいことですし、特に初心者には無理難題です。よくいわれることですが、2つのポジションに分けてエントリーすることを前提としてロット計算しましょう。
例えばですが、下の図の状況で、
プライスアクション的に半値押しの「買い1」で折り返しそう、また、二つ前の安値であることから、安値切りあがりの上昇を見込んで、「買い1」 でエントリーしたいとしましょう。
しかし、やはり直近安値まで下がってからダブルボトムの形で反発となるかもしれません。「買い2」でエントリーする可能性も考えて余力を残しておきます。
「買い1」で首尾よく値が上がるなら、買い増しはしません。
「買い2」に達したとき、あなたの期待した値動きでないなら、無理にエントリーはしません。
この場合、ナンピン=悪ではありません。最初から想定していることです。
たとえば、実質レバレッジ5倍と決めたなら、1ポジションあたり、実質レバレッジ5倍のロット数の半分とします。
大抵は複数の展開を想定しますが、このポイント以外にないと判断するのであれば、1ポジションのロット計算でよいです。
負け続けたらロットを下げる心の割り切り方
負け続けてロットを下げれば損失を取り返しづらくなります。このため、ロットを下げることは相当な心理的苦痛を伴います。人には、利得のチャンスを逃すことへの恐れと、強い損失回避性があるためです。
この心理的傾向は、ノーベル経済学賞を受賞したダニエル・カーネマン、エイモス・トベルスキーにより、プロスペクト理論という人間の意志決定メカニズムとして広く知られるようになりました。
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プロスペクト理論については、「ファスト&スロー」の下巻、第4部の「選択」で説明されています。
欲望に負けて、資金管理ルールを破れば、その先はギャンブルの世界です。
では、どのように心を割り切ればよいでしょうか?私はこのように考えます。
あなたが投資家で、例えばあるスタートアップの会社に投資したが、計画未達で業績は振るわず、それでも挽回するからと、これまでどおりの資金提供をお願いされたらどう思いますか?
状況によるでしょうが、結果の出ていない・儲からないビジネスモデルに投資する価値はない、まずそう考えるのではないでしょうか。
つまりそういうことです。自分のトレード手法に対しても同じ考え方をとります。ただ、自分のことですから、将来の成長と改善を見込んで、投資金額を減額してFXを続けるといった感じです。
複利だとこんなに儲かる!
ここで、複利の儲かり方をご紹介しましょう。
初期口座資金10万円、1ロットでスタートします。ロット数は実質レバレッジ11倍固定で計算します。前述の計算例とおなじ、ドル円を110円で仮定し、560pipsのマージンがある状態とします。
1日10pips(ドル円では10銭)、1週間で+50pipsづつ獲得したら1年後いくらになるでしょうか?固定比率にもとづき、1週ごとにロット数を1回変更するルールとします。
1年を50週で計算しますと、
- 1,146,740円 (11.47ロット)
元手が10万円で、1年でこれはすごくないですか? 2年後の100週目では、
- 13,150,126円 (131.50ロット)
2年間、100週分の成績をグラフにすると次のようになります。
1年で10倍強づつ増えていくわけで、3年後の150週目には、約1.5億円、余裕で億り人になります。10pipsづつ3年の積み重ねで、たった10万円が、です。
初期資金10万円で1枚というと大したことないと思った方がいるかもですが、ここまで金額が大きくなると実質レバレッジ11倍が大きいのでは?とおもうことでしょう。これだけリターンが大きければリスクも大きいはずだと。
その通りだとおもいます。”大したことない”と思った方は、10万円という金額の絶対値の大きさから何となくそう感じてしまっただけです。とくにFXを始めたばかりのひとは実質レバレッジをもっと抑えるべきです。
ただ少なくとも、コツコツ継続型がFXで実現できた日には、ものすごいことになることは確かですね。
利点:現在のロットを自分の”レベル”だとみなせる
FXの能力が相場で資金を増やせる力だとすれば、最初は誰でも、たとえ大金持ちでも、たった0.1ロットでさえ相場で動かせる能力がないといえます。
なので、FXを少額からはじめるのが正攻法です。能力が上がれば、複利で効率的にお金が増えていきます。
固定比率なので、ロット数は勝てば上がり、負ければ下がります。経験をつめばつむほど、固定比率でのロット数は、およそ現在の自分のレベルだとみなせます。
現在のロットが自分がFXで扱える金額だと認識しやすい。これは固定比率の利点のひとつだとおもいます。
もしダメでも損失は最小限
どうしてもレベルが上がらない、むしろ下がっていくようであれば、FXをあきらめるのも良い判断です。向き不向きがありますし、FXはゼロサムゲーム、全員、勝ちのこれたりはしません(もっとも、全員かちのこれる商売・業界ってありましたっけ?)。
そのとき、固定比率なら、損失は最小限で済みます。
ロットを上げれば心理的壁も
さきほどの複利の試算をみれば想像できるかと思いますが、 能力が上がりロットが上がってくれば、ふつうは恐怖や強欲といった煩悩の壁にぶつかり、レベルがあがりにくくなっていきます。
口座1億円・1000ロット4400万円を、口座10万円・1ロット4.4万円と同じ冷静さで扱えるなら、相当な才能の持ち主だと思います。
実質レバレッジはどうやって決める?
最後に、肝心の実質レバレッジの数字についておはなししたいとおもいます。
実質レバレッジが高すぎれば危険なのはもちろんですが、低すぎても資金がムダになります。では、どのように実質レバレッジを決めるべきでしょうか?
諸説あって残念ながら決定版はありませんが、一般には5、6倍が安全といわれています。
ただし、トレード手法・システムトレードのルールで決められた平均損切ラインや、最大ドローダウンといったリスクの数字から計算する方がむしろ普通です。トレード手法の考え方は実に様々であり、このため決定版がありません。
重要なのは、実質レバレッジの線引き(資金管理)は、トレード手法というビジネスモデルの柱であるという考え方です。
実質レバレッジは、安全圏の数字から出発し、経験を通じて、各トレーダー独自のビジネスモデルに織りこむように最適化していく数字ではないでしょうか。
補足1:通貨ペア間の値幅のちがい
メイントピックは以上になりますが、固定比率サイジングに付け加えたい要素についてふれておきたいとおもいます。
実質レバレッジが同じなら、異なる通貨ペア間のリスクが同じかといえば、答えはノーとなります。理由は、値動きの大きさが違うからです。このため、とくに初心者の方は
- むやみに、いろいろな通貨ペアに手を出さない
- 値動きが穏やかなドル円(USD/JPY)が初心者にはおすすめ
しかし、トレーダーにとって最も恐ろしい状態は暴騰や暴落ではなく(それはむしろチャンス)
値が動かないこと
です。なぜなら儲けようがないからです。 動く通貨ペアを横目に動かないドル円のチャートの前でただじっとしているのは機会損失、といわれれば否定はできません。
他通貨ペアでの取引を検討する上で、ドル円との相対的な値動きの大きさを把握しておくほうがよいでしょう。値幅に関する、次のような記事を用意していますので、よろしければご覧ください。
補足2:時間帯による値幅の違い
1日のうちで時間帯によっても、値動きの大きさがことなります。
東京時間のお昼ごろと、ロンドン・ニューヨークが重なる午後11時頃の最盛期では、ロット数や損切幅の考え方も、当然、異なってくるでしょう。
次の記事では、1分間の値幅の絶対値を長期にわたり平均し、1日のあいだでの平均的な値動きの変化を詳細に追っています。
「時間の変わり目には注意する」、といった基本事項についても注目しています。
ドル円のみではありますが、ご参考になれば幸いです。