高額なツルハシを買わないために・情報商材詐欺のパターンをおさえる
厚労省の副業兼業の促進、トヨタ社長の終身雇用無理です発言など、今まさに時代の潮目という感じです。
生計の立て方に変化を迫られつつあることは事実でしょう。そこで、じゃあ、がんばって収入源を複数に増やそうと行動を起こすこと、それ自体は大変素晴らしいことです。
でもです。そこに需要を見る人々がたくさんいます。
その前向きな気持ちにつけこんで、高額な「ツルハシ」を売りつけようという怪しげな人々です。とくにネットビジネス関連。
後を絶ちませんし、いなくなる気もまったくしません。
あからさまにウソではないが、冷静に考えたら高額だろう、みたいなまぎわらしさもあり。グレーゾーンをついてくる。
でもよくみれば、その基本的なパターンって、みな同じようなものなんですよね。
今回は、ウソではないが微妙なラインをついてくる情報商材屋のやりくちをみていきます。
微妙な線をついてくる商材ビジネス
ねずみ講とか、明らかに特定商取引法に違反する悪徳業者に引っかかるのは論外としても、
特定商取引法ガイド
http://www.no-trouble.go.jp/what/
ウソではない商材で、価格設定も微妙なライン、てのも多い。
人は希望いだくと、まともな知能を持っている人でも、判断能力が激下がり、ってことがありえます。
とりわけ、情報商材という高額で無形のツルハシをうっかり買ってしまい、軍資金を減らすなんてことは考えたくもない事です。
この記事では、どんな精神状態でも、瞬時に怪しい匂いをかぎ分けられるように、特に情報商材系について、今一度、基本的なスキームを確認してゆきたいとおもいます。
具体例と基本パターン
少々古いですが、次のリンクは、日刊SPA!の、実際の情報商材の作り手へのインタビュー記事です。具体例として大変わかりやすく、おすすめです。
20万円の情報商材を販売して月200万円を稼ぐ男「10人中2~3人騙せれば黒字です」
日刊SPA! 2018/8/3
この記事からスキームを私なりに要約すると、以下のようになります
- SNSや電子書籍で集客して無料会員登録させる (最近は、twitterで、フォロー&RTした人に抽選で100万円あげます、みたいな露骨な集客手法が散見される。アカウントはカモリストとして売られる)
- 商材の一部を無料で会員に提供する
- 興味をもった会員は、情報商材(単価は高い)を購入する
- 内容はオーソドックス。ググればわかるようなもの
- 商材はウソではないので、たまに上手くいくヤツもいる
- 上手くいくヤツが出てきたら宣伝に使う。1に戻る
SPA!の記事は、オンラインカジノ攻略の情報商材の例ですが、商材はなんだっていいわけです。
元々は、与●さんが元祖だったかとおもいますが、この汎用性はまさに”システム”で、ある意味素晴らしいですよね。
また、インフルエンサーなんかは、やろうと思えばですが、1という労力がかかる部分を、ほぼ省略できます。
数がいればなんとでもなる確率的戦略
ポイントは2点あるとおもいます。
1. 情報商材は平凡な内容でよい。明らかなウソでなければいい。
→ お縄になりにくい
→ うまくいくヤツが出てきやすい
2. ネット時代は確率的なアプローチが容易
→ 数打てば、「お客さん」に当たる
→ 数打てば、「うまくいくヤツ」にもちょっと当たる
ネット時代は「数うちゃ当たる」が容易になったといえます。認知能力を確率分布でイメージすると、とこんな感じになるでしょう。

横軸右方向が認知能力の高さ、縦軸の高さが人数割合とします。
- Dクラスの人がお客です
- Cクラスの人は無料会員になったとしても、やばいと思って手を引けます
- Bクラスの人はDクラスのひとをバカだと笑います
- Aクラスの人は、そもそもこんな情報商材なんて眼中に入らないでしょう
Dクラスの人数割合はわずかですが、分母が大きければ、商売的には十分な売り上げを生みますよね。
無料会員になった時点で、ある程度の脈ありフィルターを通過してますが、例えば1/100のご成約でも、会員が1万人、商品単価が20万なら、2,000万の売り上げです。なおかつ原価はとてつもなく低い。
誰でも引っかかる可能性がある理由
悪徳ツルハシ売りに引っかけられてしまう原因は、単純な強欲さゆえ、ということもあるでしょう。
しかし、一概に「バカだから。以上」で片づけられないところがあります。
なぜなら、人の認知能力は常に変動しているからです。平均以上の知能をもっている人でも引っかかることは十分にありえます。
たとえば、今の仕事が心身ともに辛い、経済的に困っている、病気がちだ、ともかく現実がクソだ、というような状況下では、人は救済の幻想を抱きやすいです。宗教への加入動機と似ています。
ツルハシ売りは、救済の幻想を焚きつけてきます。
人生のタイミングによっては、まともな人が、ごく短期的にでも、前述のDクラスに落ちてしまってもおかしくありません。
こうした幻想は「希望」として現在の心労を和らげたりします。この効果はやっかいです。古代ローマの名言にあるように、私たちは
「生きている限り希望をいだく(dum spiro spero)」
ものですが、希望と幻想の区別はけっこう難しいものです。
ありがちな売り文句
ツルハシ売りのありがちなセールスライティングとしては、
- 経済的自由、労働の苦役について、言葉をかえて何度も繰り返す
- 貧乏で何のとりえもなかったが(この商材で)どん底からはい上がれた。あなたにもできる
- 返品保証あり
などなど。
言葉を変えて何度も同じ主旨を繰り返すこと、 苦労話でストーリだてること、 保証ありとして安心感をあたえること、これらはみなセールスライティングのテクニックです。
正論を巧みに混ぜてきたり、感情的な共感と方法の再現性をごっちゃにしたりと、幻惑してきます。
怪しいセミナー勧誘の実例
Youtubeの「ラーコージョニー」というチャンネル(本来はミュージシャン向け?)で、 アーティストやミュージシャン志望の方をターゲットとする詐欺オーディション組織のセミナーに潜入取材した動画がアップされています。
その組織は、ガールズスタイル・メンズスタイルという名で現在進行形で活動しています。
この組織は、マルチ的手法のネットビジネス・情報商材を売りつけるという噂が流れており、そこでチャンネル主の克樹さんが潜入取材、徹底追及して、動画で実際のセミナーの生々しい音声録音を公開しています。
ガールズスタイル・メンズスタイルのやり方は、音楽で食べていきたいという若者の希望にめをつけて、twitterで大量のDMをばらまいてセミナーに呼び込み、高額な会員費用をむしりとる、といった流れです。
主催の「T山」氏は、元はそれなりのミュージシャンとのことですが、 録音音声の中でのっけからこういいます。
音楽やってるやつクソみたいなやつ多いから。貧乏人がおかしくなったやつ(中略)時間守らない約束守らない嘘は吐くし、パッパラパーのペーペーだよ(中略)教えて下さいって事で(セミナーに)来てんのに疑ってるやつとかさ、来んなよな
ラーコージョニー「マルチや詐欺で有名な芸能オーディションのセミナー受けてみた続編」より
彼らが想定している“お客”という意味で彼らの本音でしょうけど、同時に、闇落ちした背景をなんとなく感じました・・・
セミナーの話者はT山氏を含めて二人登場しますが、正直どちらも話術に長けているとおもいました。特に自分たちのロジックの欠点(実際、穴だらけ)をウヤムヤにする話術のポイントがよく抑えられています。
- 高圧的な話しぶりで話者に不利になるような質問を抑止する
- 相手に考えるスキをあたえないように、まくしたてる感じで話す
加えて、極端に一方的な説明を長時間行うことで参加者の思考力を奪い、最後に契約に持ち込んできます。
関連動画は今のところ4本あります。各々かなりボリュームがありますが、詐欺セミナーに参加する仮想体験ができます。
「ラーコージョニー」 は、2019/7/26時点で登録者数100人未満と少ないのですが、潜入取材動画は丁寧に作りこまれており、なにより一次情報なので、Youtubeの中でも大変貴重ではないかとおもいます。克樹さんの行動力と度胸に感服です。
学ぶべきところもある
とはいえ、
- ネット時代の言葉の拡散力・集客力の利用
- コピーライティング・セールスライティングの活用
- ターゲットを確率的に捉える考え方
これらが悪な訳ではありません。むしろまっとうな方法論ですが、常識や正論の混ぜ具合により、違法と合法の間でグラデーションを描いている感じです。
ダークサイドで使われる側面を除けば、学ぶべきところもあります。どんなビジネスにせよ、いまやインターネットは手段として外せない重要な要素ですので。
とくに、コピーライティング・セールスライティングは、言葉で人をいかに行動に駆り立てるかに特化した技術です。
セールスライティングの書籍をみれば、「ツルハシ売り」の人々も、実はセールスライティングを勉強して広告を書いていることがわかります。
セールスライティングをざっと知るだけでも、身を守るのにやくだちます。
コピーライティング ・セールスライティングの書籍は多数あります。
個人的おすすめは、セールスライティングより広い視点でかかれていますが、メンタリストDaigoさんの「人を操る禁断の文章術」です。わかりやすさ、実用性の点で素晴らしいとおもいます。
最後に、情報商材の価格は、概ね書籍程度の価格が相場、と認識しておけば、無難です。レアな一次情報とか、滅多にあるもんじゃないですよね。
※余談ですが、”dum spiro spero”は出典不明だそうです。